食べ物エッセイスト 小日向 舞さんエッセイ

食べ物エッセイスト 小日向 舞さん

食べ物エッセイスト 小日向 舞さん

「名物」

ついにここまできた。「名物」は相当「上位ランク」のお茶である。なんだかわくわくどきどきしてしまう。

静岡県に来るまでは緑茶を飲んだことがほとんどなかった私だが、店主にお茶を分けていただいて飲んでいくうちに、飲む前にまず葉っぱを見て、そして食べてみるのが、いつしか習慣になっていた。名物はどんなお茶だろうか。

さっそく袋を開けてみた。葉には美しい艶と輝きがあり、鮮やかな緑色をしている。相当細く縒ってあり、一本一本が細長い。それだけで、「いいお茶」であることがわかる。ひとつまみ手にとって食べてみると、パリパリとした食感のあとに、じわーっとうまみと苦味が広がった。これは、かなりおいしいにちがいない。

いいお茶ということで、淹れるときも少し緊張した。しかし、いつもどおり温度計を使ってみたりしたが、どうもうまくいかない。味が安定しないのである。苦くなりすぎたり、薄すぎたり、満足のいく味に仕上がらないのだ。葉っぱから想像する味に、どうしても近づけないのである。つまり、お茶の持つ味を、最大限ひきだせていないようで、もどかしいのだ。
このうまくいかない感じは、ダーツで中心を狙っているのにちっとも真ん中に当たらない、あの感覚に似ている。もしくは、すごくいい靴を履いているのに、速く走れないような感じでもある。なんというか、お茶に試されているような気がしてならない。

ところがある時、温度計をやめて、店主に以前教わったとおり急須を熱湯であたため、その湯をまた湯のみに入れてあたため、その間に茶葉を急須に適量入れて、湯のみの湯を注いで二分待つというやり方で淹れてみると、いとも簡単に適温で適切な味のするお茶が出来上がった。その際、いつもは二杯に分ける量を、やや大きめの湯飲みを使って淹れたところ、ことのほかおいしいお茶に仕上がった。

飲んだ瞬間、「捕まえた!」と思った。さっぱり軽やかでありながらも、深みのある繊細さがある。加えて、苦味、渋み、香り、甘みといった味と温度のバランスが、見事に調和している。強烈な個性は敢えて主張せず、気品ある味が豊かな心持にしてくれる。うまく淹れられなかったときは、「意外に苦いな」と思っていたのだが、それは苦味の角だけが飛び出てしまって、本来の味のバランスを崩していたようである。コツをつかむまでは「これでもない」「あれでもない」と試行錯誤の連続であったが、いい塩梅に淹れられるようになり、大満足だ。

いいお茶になればなるほど、淹れるときに微妙なさじ加減が必要になってくるのだろうか。「奥が深いなあ」と、あらためて感じ、またもや、緑茶の世界に魅せられた。

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